東京高等裁判所 昭和62年(ネ)832号 判決
1 ≪証拠≫によれば、次の事実が認められ、他に同認定を覆えすに足る証拠はない。
(一) 本件係争地を含む旧三番土地は、もと鈴木の所有であったが、九筆の土地に分筆された(その位置関係は別紙図面のとおり)うえ、宅建業者である有限会社羽沢商事の仲介により分譲された。
(二) 被控訴人は、自己の経営する建築業者の吉田工事株式会社をして建売住宅を建築販売する目的で三番土地及び二三番土地を購入したが、資金上の都合から二〇番土地の全部と一九番土地及び二一番土地の各五八分の一九の共有持分を兄吉田一乗経営の株式会社一乗に買い受けて貰い、その後昭和五一年六月一七日被控訴人がこれを譲り受けた(この点は当事者間に争いがない。)。
(三) 他方、控訴人は昭和四七年一〇月一八日本件係争地及び一七番土地を単独で買い受けたが、控訴人にとって本件係争地は通路としても別段必要なものではなかったけれども、売主より一七番土地と一括で買わされ、代価も両者同一単価の坪当り七万円であり、当時、一七番土地上に古家が存在し、右土地と本件係争地との境界に目印となるべき標識はなく、売主又はその代理人の羽沢商事から本件係争地には通行地役権の負担が存する旨の説明は全くされなかった。
(四) 本件分譲地に接する公道は、伊沢林太郎所有の横浜市神奈川区羽沢町字浅見五八五番二(登記簿上公衆用道路)の八六二平方メートルのみであり、その東側に接する本件係争地及び一七番土地から一九番土地、二〇番土地、さらには三番土地、二三番土地方向に次第に下降する地勢であって、三番土地と二三番土地がその東側の低地となっている五八一番土地と接する部分はかなり落差のある断崖となっている。
(五) 本件係争地及び一九番土地は幅員約四メートル、二一番土地のそれは約二メートルで、いずれも細長い地形であり、これらの土地の通行が不可能であるとすると、被控訴人所有の三番土地、二〇番土地及び二三番土地は全く公道に接しない袋地である。
(六) 本件分譲地は、市街化調整区域であって、本来住宅の建設は許されない地区であり、本件分譲地の購入者に対しては羽沢商事を通じて昭和四七年九月ごろ分譲地の分筆図面を添付した物件説明書が交付され、これによると、私道負担の存すること並びに飲料水、排水設備等の負担は各買主において平等分担とする旨の記載があり、さらに被控訴人は同年一〇月一三日付三番土地、一九、二〇、二一番土地、二三番土地のほか二二番土地を含む求積図の交付を受けた。
他方、控訴人は、昭和四八年ごろ吉田工事株式会社に依頼して一七番土地に土盛りをして整地し、本件係争地との境界部分に土留めのコンクリート擁壁を設置した。
(七) 一七番土地上に控訴人所有の居宅建物、二〇番土地上に被控訴人所有倉庫が各存し、高塚勝美所有の一八番土地上に同人所有の倉庫があるほか本件分譲地内に建物はなく、本件係争地、一九番土地、三番土地を経由して五八一番地方向に下水管が埋設されているが、二二番土地の所有者高塚一は過去、将来とも本件係争地の使用意図はなく、ただ被控訴人が昭和五八年ごろまで前記自己所有地に宅地造成工事の廃棄物を投棄するため本件係争地をトラックで通行したことがあり、その際、控訴人からの別段の異議申出もなかった。
本件係争地は、現在控訴人が一七番土地の東側部分に自車を駐車させるため通行するので、道路状の外観を呈している。なお、被控訴人は、負債整理のため前記所有地の転売を意図している。
2 本来、地役権は、他人の土地を自己の土地のため一定の目的に従い便益に供しうる権利であって、承役地の所有者にとっては重大な権利制限を伴なうものであるから、その設定は、明示の意思表示が存する場合は格別、これが黙示により設定されたものとするについては、地役権設定を推認することができる事実の存することを要すべきところ、前記認定事実に照らすと、控訴人は、本件係争地の購入に際し、地役権設定の負担付きであることにつき売主又はその代理人である羽沢商事から何らの説明を受けておらず、また、その物件説明書にその旨の記載があったことも認め難い。
さらに、本件分譲地は、もと鈴木所有の旧三番土地を九筆に分筆のうえ分譲したものであるが、市街化調整区域であって本来住宅建設の許されない地区であること、分譲当時から、一九番土地及び二一番土地が二二番土地所有者高塚一と被控訴人(当初は株式会社一乗)との共有であるのに、本件係争地は控訴人の単独所有であり、控訴人にとり同土地は必要でないのに売主から一七番土地との一括購入を求められ、しかも、両者同一単価で買わされたものであること、本件係争地は、幅員約四メートルであって、一見道路状の外観を呈するが、これより東方に向けて次第に下降する地勢であり、本件係争地から一九番土地、三番土地を経由して五八一番土地に通ずる下水管が埋設されており、控訴人が昭和四八年ごろ被控訴人に依頼して設置した擁壁により一七番土地と区画され、昭和五八年ごろまで被控訴人が造成工事廃棄物の投棄のためトラックで通行したことのあるほか、現在控訴人が自車を一七番土地の東側部分に駐車するため使用するにすぎないことなど総合勘案すると、本件係争地は、いわゆる宅地分譲に際し各分譲地購入者間相互に交錯的地役権の黙示による設定契約が肯認される場合と事案を異にし、これと同じに取り扱うべきではなく、本件係争地につき被控訴人主張の通行地役権設定は、これを認め難い。
そこで、被控訴人の予備的請求について検討する。
本件係争地につき通行権が認められないとすると、被控訴人所有の三番土地、二三番土地及び二〇番土地が袋地となること上記認定事実に照らして明らかである。
そして、右被控訴人所有地から公道である五八五番二土地に通ずるには、囲繞地のうち本件係争地を通行するのが通行権者のため必要にして、かつ、囲繞地所有者のため損害が最少であるものというべきであるから、被控訴人は、本件係争地につき民法二一〇条に基づく通行権を有することになる。
(舘 牧山 小野)